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日常1割妄想9割な暴走特急で爆進☆日記!
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2024/05/07 (Tue)
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2008/11/08 (Sat)

※先生にとってピノコとは何?

 








もし

あたしが普通に生まれ落ち

患者
としてではなく

一人の女
として出会ったならば

あなたは
愛してくれますか?

 

 

存在意義



イキタイ
       イキタイ


あたしは暗闇の中、ひたすら願い続けた

 

なぜあたしだけ『外』へ出れないの?

『外』から聞こえる楽しげな声

そして、日夜繰り返される自分への非難


(お前さえいなければ)
  (気持ち悪い)  (お前なんか……)

 
全ての責任を委ねられ、もう一人の「あたし」は被害者として哀れな人とみなされる

 

誰からも必要とされない『外』の世界でも、あたしは出てみたかった

こんな無の世界で終わりを迎えるくらいなら一度でいい

抜け出したい


そう、強く願った


あなたはその願いを叶えた


初めてあたしの声に耳を傾けた医者の行為は、自分は必要価値のあるものだと、そんな意味をなした

 

 

 

「お前さん、これが世の中だ」


まだ視界がぼやける中、あなたは優しげに話しかけた


初めて自分だけに向けられ言葉


それは非難ではなく歓迎の言葉

 

その後のリハビリは過酷そのもので甘えなど認められない
でも突き放す態度を取っていても見放すことはしなかった

だからあたしは応えようと頑張れた

そして次第にあなたに恋心を抱いた

 


ある程度日常生活ができるレベルまで体を動かすことが可能になった頃


ふと、疑問を抱いた

 

「ちぇんちぇいにとってピノコはどんな存在なのよさ?」

あたしは勇気をふり絞って尋ねてみた


あなたは医者
それも天才的な腕を持ち、多額の金を積めば治療してくれる


患者だからここまでしてくれたの?

 

でも、あたし、正式の患者じゃない

 

あなたの独断で、バラバラなあたしを人として新たに命を与えただけでなく、こうして家においてリハビリをさせてくれた

これは何か特別な思いがあった、そう解釈していいの?


それが恋であれば…

密やかであった期待が願望へと変わる

 

しばらく沈黙が続き、その間あなたはあたしの目を真っ直ぐ見つめ逸らさなかった
波の音がやけに大きく聞こえた

 

やがて沈黙を破ったあなたから出された言葉は、予想せぬものだった


「子供のようなもんだな」


「子供…?」


「バラバラなお前の体を組み立てて、ここまで身動きできるまで成長したら…まぁ親…みたいな気持ちになるな」

まだ考えあぐねているようだったが、この先の言葉なんて聞きたくなかった




「あ、そう」


書斎をあとにし自室へ戻ると頬に何か伝っててきた
それはあとからあとから溢れ嗚咽が出始めた

ベットに顔を押しつけ、なんとか声を殺そうと努める

 

本当なら18歳


こんな幼稚園児な体ではなく八頭身の体に成長し、恋愛の一つや二つはしていただろう

頭と体とのジレンマに嫌気が差す

 

 

生きたい

それだけを望んでただけだった


それが『外』の世界へ出て、あなたに出会い、次々と欲求が押し寄せた

食べたい、歩きたい、見たい、触れたい、……………

 

愛したい

愛されたい

 

風船のように膨らむ欲望

とどまることをしらない風船はさらに大きさを増していく

 

 


いずれ子供は親の元から離れ新しい家族を作る

だとすれば
いずれあたしはあなたの元から去らなくてはならないというの?

 

そんなの、イヤ

 

このままあなたの傍にいたい
ずーっと一緒にいたいの

永遠に…―

 

あなたとの別れが訪れたらあたし生きていかれないもの

誰も必要とされない世界でどう生きていけばいい?

 

 

「ピノコ?」


ドアをノックする音で澱む思考から現実に引き戻された
ドアの向こうには探るような口振りで返事を待ち押し黙るあなた

「あ…どうちたの、ちぇんちぇい?」

涙声が多少残っていたが、なるべく明るい声を発す


「いや、何でもない」

「もうちぇんちぇいったら」

本当は笑いたい気分でもないのに無理に笑う

そうしなきゃあなたがこの部屋に入るかもしれない

こんな欲望が剥き出された部屋を見てほしくないから

特に違和感を感じなかったのか「そうか」といい、立ち去っていった


一時感情を制御できたが安心と報われぬ願いでまた涙が溢れた

 


あぁ

普通に生まれてきていたなら、どんなによかったか

何万回も繰り返した

 


でも普通に出会ったとしても、一緒にいられるとは限らない

この特殊な体質だからこそ、興味があっておいてくれたのかもしれない

なら特別視してくれている分、それでいいじゃないか

子供と思われても

 

 

 


「どうして泣いてるんだ」


ハッと顔を上げると、立ち去ったはずのあなたが攻めるような目で覗きこんでいた


「え…べ、別に」

慌てて視線を逸らし下を向くが許されなかった

顎に手をかけられ互いの視線が合うよう固定される


濡れたシーツ
そして目を腫らしたあたし


「これは別にという問題には思えないがな。はっきり訳を話したらどうだ」


言える訳がない


今、気持ちの整理をしたというのに


心でひたすら強く願ってることをあなたにぶつけられない

だってこんな欲望の塊でできたあたしを知ったら呆れるでしょ

 

「ほんと大ちた理由なんてな」
「いい加減にしろ!!」

突然の大声


「お前はなぜいつも我慢するんだ?もっと本音を言えばいいじゃないか」


できない

あなたを困らせるに違いないもの

困らせて追い出されるくらいなら私情なんてどうでもいい


口を堅く閉ざしたまま怒りの色に染まるあなたの目をみつめた

 

「……分かった。それがお前の答えなら、私はもう追究しない」


そう言うと、すぐ立ち上がり歩いていく
ドアを閉める前、後ろ向きのまま立ち止まった


「さっき子供のようなものだと言ったがな、考えが変わった。私にとってお前は
ただの、患者だ」

 

パタンッ

 

やけに虚しく響いた

あなたとの生活の終焉を意味しているかのようだった
最後の言葉がこだましいつまでも耳に残る

 

まだ、子供の方がマシ

患者なんて、ヤダ

 


ヤダ!

無我夢中で部屋から飛び出しあちらこちら見渡す
書斎にも居間にもいない
寝室にも…


どこ?
どこ?


「ちぇんちぇい?」

返事は返ってこなかった

その場に膝をつくと、もう涙を拭うことを忘れ、声を張り上げて泣いた

「…ひっ…ひっ……かん…じゃ…なんて…やぁああ!」

頑丈に固められた感情のダムにヒビが入りつつあった

「あたち…ひっく…ちぇんちぇいのこと…ちゅきなのよさぁ!愛ちてゆの!」


溜め込んだ思いが吐き出される

 

 

「初めての本音にしては、大胆な告白だ」


外に出ていたのだろうか、玄関に現れたあなたは溜め息をつくと、壁に寄り掛かりこちらを窺う


困らせた

次に告げられる言葉で最後

『出ていけ』に決まってる

 


「言いたいことはそれだけか?」


退去を下されるはずが違った


「まだ溜め込んでいるんだろ。我慢は無用だぞ?」

ニッと笑いかけた顔が眩しくて…

愛しくて

 


「言って…いいの?困らない?」

おそるおそる尋ねると、ああ、と頷いた

それを合図にあたしは一呼吸して思う通りに吐き出した


「このまま…ずぅーーと、ちぇんちぇいといたい!
ちぇんちぇいがあたちのこと子供とちて見てるの、ほんとはイヤだったよのさ。
子供だったらいずれ別れなきゃならないでちょ、だから………」

 

 




ふと目を開けると、外はもう暗くなっていた


泣き疲れと今まで我慢してきた疲れで、いつの間にか寝てしまったようだ

まどろみから抜けだそうと、何度かまばたきをする
背中に柔らかい感触を感じ自分が今、ソファにいることを認識した

「起きたか。どうだ気分は?」

すぐ隣りにはいつもの優しげな笑みを浮かべたあなたがいた


もう終わったことなのに、思いをぶつけてしまったことに罪悪感がじわじわと湧き上がり、真っ直ぐあなたを見れず下を向いた


「ピノコ」とあたしの両手をとり、静かに呼ぶ


「私は、お前のことが好きだ。愛している。だがな、恋愛感情としてではないんだ」

黙ったままでいるあたしにあなたは続ける


「だが、子供に対する愛でもない。…正直なところ、私にも分からないんだ…自分のことなのにな」

「ちぇんちぇい…」


「まだ適切な答えは出せない。だが私はお前を手放す気は微塵もない。
それだけは分かっていてくれ」


「それ…ほんとぉ…?」

「ああ、勿論だ」


嬉しい


たとえまだ恋愛感情として見てくれなくても、あなたにとってあたしは必要な存在なのね


また涙が溢れた


「おい、泣くなよ」

大きな手が背中にまわされ引き寄せられる

温かい胸の中に抱かれ、あたしの膨れ続けた欲望の風船は破裂する


「ありがとう、ちぇんちぇい」

 

 

《終》

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