
酒は、人の人格を変える恐ろしい飲み物
ピノコは悟った。
多量のアルコールを摂取させたのは紛れも無く自分
自業自得だ
でもまさかあそこまで酒癖が悪いとは………想定外だった
岬の酒豪に要注意
この日奇妙なことに、過去彼に命を救われた患者からのお礼の品がなんと10件も届いた。
治療費はとっくに受け取ってはいるのだが、たまにさらに感謝の印として品物を贈ってくる人がいる。
偶然にも全て酒
酒の種類は違うとはいえピノコは驚いた。これは狙ったとしか思えない。
(そーいえばちぇんちぇいってお酒強いのかな?)
ちらっと医学書を読むブラックジャックを見る。
いつ急患が入るか分からない職業柄、自身でセーブしているようで、瓶一本以上空けることは未だかつて見たことがなかった。
眼の前にある酒を眺めてながらピノコはニヤリと笑った。
(ふふふふ…ならこの眼で試ちてみるわのよ!!)
「はい。どんどん飲むのよさ!」
空になったコップにそそくさにお酌をする。
「おいおい…そう急かすなよ。
にしても、よくもまあこれだけ酒がくるとはな……これなんか入手困難な酒じゃないか」
珍しくも夏季休暇を取るということで、これなら思う存分に飲ませても支障はないだろうと考えたピノコは、早速頂いた数々の極上の酒を飲ませる。
ブラックジャックは、ピノコの密やかな企みなど露知らず、促されるように酒を仰ぐ。
久々に酒を堪能できるとブラックジャックも嬉しそうだ。
―四時間後―
「お酒なくなっちゃった…」
食卓の上には空になった瓶で埋め尽くされ、飲んで無いピノコは匂いだけで酔えそうなくらいだ。
まさか全部飲み干すとは思わなかった
拒むことなく飲み続ける彼はお酒が強いと判明したが…
あまり酔った素振りが見受けられない。
(なんらぁ…つまんないのよさ)
ただ強いかを知りたかったはずが、酔ったブラックジャックを見てみたいと目的が脱線していたピノコは、落胆しながら片付けに取り掛かろうと席を立ち、袋の中に瓶を入れていく。
最後の一杯を飲み干しコップを机に置くと、いきなりブラックジャックはクククッと笑いだした。
ハッと手を止め顔を向けると、眼は虚ろでほんのり頬が紅潮しており、笑いはだんだん激しくなり目尻からうっすら涙が滲んでいる。
(笑い上戸!?そっか~酔うと笑う人になるんらー!)
一人ふむふむと頷いていると、ブラックジャックはいきなりふらふらと立上がりしばらくピノコの顔をじっと見た後、書斎へ千鳥足で向かう。
相変わらず笑いは止まらない。
少々不気味であるが、後をつけると、机の引きだしの中をごそごそと漁っている。
「何さがしてゆの?」
ひょいと覗き込むと、黒と赤のマジックペンを取り出していた。
まじまじとペンを見るピノコを余所に、ブラックジャックはリボンタイを取りジャケットを脱ぎ始めた。
「な何してゆの…?」
「ん?」と見下ろす眼がなんとも色気を感じ、どきりとさせられる。
返答の代わりにうっすら笑みを浮かべるだけで、黙々と脱ぎにかかるブラックジャックにしどろもどろになるピノコ。
(笑い上戸の上露出狂れすか!?)
「ちょっ…仮にもピノコは18しゃいのレレイなんらよ!乙女の前れ止めてよー!!」
ポカポカと叩きながら訴えるが手の動きは止まらない。
「待て待て、おもしろいもん見せてやるから…」
「ばかー!変態!!」
そうこうしているうちに、縫い傷だらけの上半身が現れると、次に先ほどの黒いペンを持った。キャップを外し、キュッキュッと胸や腹にペン走らせ、仕上げにと赤いペンも加えられる。
徐々に体に浮かび上がったそれを見たピノコの顔は次第に引きつってゆく。
「ろーだピノコ!おもしろいだろ~」
呂律の回らぬ口振りで見せびらかすように片手は腰に置き、もう片方の手は机に置かれ体を支えているが今にも崩れそうだ。
ピノコの眼に映し出されたのは
人の顔
よく正月にお目にかかるお多福だった。
あれに比べてかなりのスマートなお多福。
腹踊りをしようと力をいれているつもりだが、あまり動きがない。
唖然とするピノコの姿に予想を反する反応で首を傾げ眉を寄せる。
「おもしろく…ないのか…?」
(おもしろいを通り越ちて引いてるよのさ…)
言葉を失っていると、急に真顔になったブラックジャックは下を向き、ドスンと椅子に倒れ込むように腰掛けた。
「折角ピノコが喜ぶと思ったのに……」
床に向かって滴が一滴、二滴と落ち、ピノコは慌ててブラックジャックの顔を覗き込む
なんと涙を流していた。
(今度は泣き上戸なのよさ!)
「そんなことない!きゃはははははっ…!お多福ちゃんおもちろい~!」
「………ほんとか?」
「うんうん!」
「無理に笑わなくていいんだぞ。どうせ俺は満足に人を笑わせられない奴なんだ。くそっ!」
(キャラ的に笑いをとるのは似合わないよ、ちぇんちぇい………)
この悲観的になってる医者をどうしようか困りながら頬を掻く。
とりあえず、酔いを覚ませなくてはと思い立ち、ピノコは水を取りにいった。
「これ飲んで」
コップを手元に持っていっても、なかなか受け取ろうとしない。
「お願いらかや飲んで?ね?」
再度優しく頼むと、顔を上げた。
涙はもう止まっていた。
コップを受け取ると、一気に喉を鳴らして飲む。
「…ありがとう」
幾分落ち着きを取り戻したようで、ピノコは胸を撫で下ろした。
空のコップを台所へ持っていこうと踵を返した瞬間、強引に引っ張られ、すっぽりブラックジャックの胸におさまれた。
「お前はいい子だ」
頭をゴシゴシと撫で耳元で囁いた。
「んもう!恥ずかちいから放ちてよ~~」
「はははっ…かわいい奴だな。余計放したくなくなるじゃないか」
(まだ酔ってるよ…! うわ~んどうちよう…)
ピノコは為す術もなくただ彼が酔いを覚ますことをただ祈るばかりであった。
「…ぅ…ん…」
ブラックジャックは眼を覚ますと、頭痛に襲われた。頭を抱えながらむくりと起き上がると、すぐ隣りにピノコが眠っていた。なぜここに?と疑問を感じると共に、自分の異変に口をあんぐりとさせる。
(なぜに上半身裸なんだ?!しかもなんだ?この落書きは!)
全て自分がやった行為なのに、昨夜のことをこれっぽっちも思い出せないようだ。
「起きなさい、ピノコ!!お前の仕業だな!悪戯にも程があるだろ!!」
ピノコの頬を軽く叩く。
「…んう…?」
まだ眠そうですぐにでも夢の中に戻りそうなのを見て溜息をつき、今度は両手で肩を揺らしなんとか起こそうとする。
「事情を話してもらおうか。おい!起きるんだ!」
「眠いよのさぁ………って、ちぇんちぇい?!」
急に眼を見開き、ピノコは勢いよく身を起こした。
「この絵はなんなんだ?何か私への恨みでもあるということか、え?」
「ちぇんちぇい覚えてないの?」
「何をだ?」
「それ、ピノコじゃなくてちぇんちぇいが自分で描いたんらよ」
「そんなバカな」
(この私がお多福描く訳ないだろう)
「証拠は?」
「え…証拠は……」
第三者もいない
一部始終見たのは自分しかいないため答えに窮する。
「ほら嘘ついたらダメだろう」
「嘘じゃないよのさ!」
視線をふらふらと巡らすと床に落ちている黒と赤のペンで止った。
(確かあのペン…)
「証拠あるよ!」
「なにぃ!」
「あのペン、ちぇんちぇいの机の引きだしに入ってゆペンでしょ?れもあの引きだし、鍵付きでちぇんちぇいしか開けられないはずらよ」
勝ち誇ったかのように説明する。
「…………嘘だろ…」
昨夜の酒癖ぶりを事細かく聞かされブラックジャックは赤面した。
その後しばらく禁酒命令をくだされたそうな。
《終》
私の中で腹踊りって、「腹踊り=浜ちゃん(釣りバ○日誌)」という公式が成り立ってるんです(笑)
この作品はまともに観てないんですが、たまたまちらっと観た時に、西田さんの見事な腹踊りのシーンでこれが印象強く残ったせいですかね(聞くな)
だから「釣りバ○日誌=腹踊り」もww黒男さんには腹踊りは似合わないと分かってはいたものの、やっちまいましたv(`∀´v)
謝罪します(>_<)
読んでいただきありがとうございました!